12月 182016
 

毎日新聞 によると。

 ムズキュン--。火曜の深夜、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「ツイッター」で話題となる単語だ。視聴者が思わず「ムズムズ」して、「キュン」とさせられるとして、人気がうなぎ登りのTBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(火曜午後10時)を見た感想が次々に投稿され、ドラマは「逃げ恥」の愛称で呼ばれている。恋愛経験のない男性と、就職活動に失敗した女性が「雇用」の延長として「契約結婚」したゆくえは。放送時間を15分拡大して放送予定の20日の最終回を前に、人気の秘密を探った

 ◇もどかしいスローテンポな「契約結婚」

 原作は、女性向けの月刊漫画雑誌「Kiss」(講談社)に連載中の海野(うみの)つなみさんの同名の漫画で、一風変わったタイトルはハンガリーのことわざだ。

 ドラマは女優の新垣結衣さんと、ミュージシャンとしても活躍する俳優の星野源さんが主演。新垣さん演じる森山みくりは「派遣切り」で職を失い、星野さん演じる30代で恋愛経験なしの津崎平匡(ひらまさ)の1人暮らしの家で、家事代行サービスで働き始める。みくりの両親が田舎に移住したことをきっかけに、2人は経済的な観点から、平匡がみくりに給与を払い続ける「雇用主」と「従業員」の関係を続けたまま結婚はせず、対外的には「普通の結婚」として同居を始める。

 恋愛感情で結ばれたわけではない2人が周囲に悟られないように、「新婚感」を醸し出すため週1回の「ハグの日」を設けるなど、ビジネスと恋愛のはざまで揺れ動く関係はなかなか進まず、もどかしい。

 みくりの妄想で挟み込まれる「情熱大陸」(TBS系)などのパロディーや、みくりの伯母「百合ちゃん」(石田ゆり子さん)ら脇を固めるキャラクターも人気。エンディングで、星野さんの曲「恋」に合わせて出演者が踊る「恋ダンス」は、フィギュアスケート選手の羽生結弦さんらが踊る動画がツイッターに投稿されて20万回以上リツイートされ、人気は高まる一方だ。

 ◇視聴率は右肩上がり 満足度「半沢直樹」に次ぐ

 ドラマの視聴率は初回10.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)から右肩上がりで伸び、13日放送の第10話で17.1%。さらにデータニュース社(東京都渋谷区)が毎日、関東1都6県の3000人から回収して行っているテレビ視聴アンケート「テレビウォッチャー」によると、「逃げ恥」を見た人の満足度(5点満点)は、11月15日に放送された第6話「温泉一泊旅行にまつわるエトセトラ」が10月スタートドラマで最高の平均4.43を記録した。調査が始まった2012年4月以降の民放プライム帯(午後7~11時)ドラマでは、13年に大ヒットした「半沢直樹」(TBS系)の第5話と第8話で記録した4.48に次ぐ高い数字だった。その後も満足度は高く、他のドラマを引き離している。

 ◇ストーリーは新しい実験 漫画家の海野さん

 「既存の考えを否定するのではなく、新しい実験として主人公2人が利用できるものは利用しながら意外とうまくやっていく感じが皆さんに受け入れていただけたのかなと思っています」。原作の漫画家、海野さんは、ラブストーリーの王道から少しひねった作品が幅広い人気を集めている理由を、そう考えている。執筆に励む中、毎日新聞の取材に対してメールで回答した。12年に連載を開始し、昨年度講談社漫画賞の少女部門を受賞した作品で、ドラマ放映前から注目を集めていた。

 漫画もドラマも、結婚制度が抱える諸問題への考察がふんだんに盛り込まれている。「契約結婚自体は漫画やドラマではよくある題材なのですが、たいていはお金持ちとの玉の輿(こし)ものでした。そうではなくて、就職としての契約結婚というのを考えてみたら、いろんな結婚や仕事についての諸問題が、逆にクリアになるのではないか、と思いました」

 ドラマは原作を踏襲しつつ、映像向けに展開を改めて組み立てた部分もあり、海野さんは「本当に原作を大事にしてくれて、なおかつドラマとしての見どころもたっぷり。原作者として幸せだなあと思っています」と出演者や制作陣に感謝する。講談社で海野さんの担当を務める鎌倉ひなみ・Kiss編集次長によると、8巻まで刊行されている単行本の売り上げはドラマ放送後、2倍以上に伸びたという。

 24日発売の「Kiss」2月号で、漫画もドラマも相次いで最終回を迎える。人気がピークに達した中で迎える結末を、海野さんは「以前は(読者から)『作者がこの思考実験をどうまとめるのか興味深い』みたいなことを言われるたびに『専門家じゃないのに、私にそんな答えが出せるだろうか……』と震えていました。自分の中で(結婚や仕事に対することで)新しい答えを提示しなければ、と思っていました。でもある時『今まで自分が考えていたことをそのまま描けばいいんだ』と気づいて楽になりました」と話した。

 ◇線引きが難しいことが苦手?

 それにしても、妻に給与を払い続け、家事の時間もきっちり規則化する設定にもかかわらず、SNSでの反響は男女ともに好意的なものがほとんどだ。マーケティングライターの牛窪恵さん(48)はその理由をこう分析する。

 「私が取材した20代の女性は『逃げ恥』を、今年7月に芥川賞を受賞してベストセラーになった村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』(文芸春秋)と結び付けていました。小説は恋愛経験がない30代半ばの独身女性が主人公です。彼女はマニュアルに囲まれたコンビニエンスストアで、機械的にアルバイトとして働くことに生きがいを感じている。ふだん若い世代に話を聞いても『何が普通で、何が普通じゃないのか』の線を引いてほしいという意見をよく聞きます。恋愛はどこまでがOKで、どこまでがNGなのか線引きが難しい。間違うとセクハラやストーカー扱いされてしまう。あうんの呼吸での夫婦の助け合いが重視されがちだった結婚が敬遠されるのも、あらかじめ契約で細かいことまで決めるドラマの内容に抵抗が少ないことの背景にあるのではないでしょうか」

 「一方、私と同世代の既婚女性とこのドラマの話をすると、『私のときにこの制度があったら良かったのに』と話す方が多いです。『やって当たり前』とされていた家事に、きちんと対価が付く。1990年代後半に(互いに仕事を持つ夫婦が週末だけ会う)『週末婚』という言葉が広がり、今では事実婚もさほど珍しいことでなくなりました。同年代の男性は、平匡の消極性に『けしからん』という声もあるようですが……」

 13日放送の第10話で、正式に結婚し、妻に払っていた給料を貯蓄などに回そうとする平匡に対し、「愛情の搾取に断固、反対します」と訴えたみくりの姿に、喝采を送る視聴者は多かったかもしれない。牛窪さんはストーリーの根底に、恋愛に消極的な「草食系」「絶食系」の若者たちの姿を感じたという。

 「たとえば、ヒロインがいきなり主人公の家に押しかけて同居することから恋愛が始まる大ヒットドラマ『ロングバケーション』(96年、フジテレビ系)のように、ふとしたきっかけで近所に住んだり、同居したりする中で少しずつ恋愛感情が芽生えるのは、昔から恋愛ドラマでよくある脚本のパターンです。しかし設定は似ていても『ハグをする、しない』で長時間を費やす『逃げ恥』のような話は、90年代までのドラマではありえないと思います」

 昨年も、恋愛経験のない国家公務員の女性と職のない男性が恋愛感情を持たずに交際をスタートするドラマ「デート~恋とはどんなものかしら~」(フジテレビ系)が話題となった。現代の若者気質を巧みに織り交ぜた点も「逃げ恥」がヒットした要因と言えそうだ。

 Posted by at 9:46 PM

 Leave a Reply

(required)

(required)

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>